「まだ若いから」は禁物。40代から忍び寄る骨盤臓器脱―福岡薬院ひ尿器科コラム
「骨盤臓器脱は、もっと年配の女性の悩みでしょう?」もしあなたが40代で、そう感じているなら、ぜひこの記事に最後までお付き合いください。泌尿器科の女性医師として日々多くの患者さまと接する中で、「もっと早く相談してくだされば」と感じる場面が少なくありません。夕方になると感じる股の間の違和感、お風呂で体を洗うときに何かに触れる感覚、くしゃみをしたときの尿もれ。それは、将来のあなたのQOL(生活の質)を左右する、体からの大切なメッセージかもしれません。本記事では、骨盤臓器脱がなぜ40代から始まるのか、その静かなサインや今すぐ始められる対策を、専門家の視点から詳しく、そして分かりやすく解説していきます。
1. 骨盤臓器脱は40代でも身近な問題
骨盤臓器脱とは、骨盤の底でハンモックのように内臓を支えている「骨盤底筋」という筋肉や靭帯の集まりが緩むことで発生します。この大切な支えが弱くなると、その上にある膀胱や子宮、直腸といった臓器が本来の位置から下がり、やがて膣から体外に出てきてしまう病気です。出産経験のある女性の約半数が、程度の差こそあれこの状態になるとも言われ、決して特別な病気ではありません。骨盤臓器脱には、下がる臓器によって「膀胱瘤」「子宮脱」「直腸瘤」などの種類があります。特に膀胱が下がる「膀胱瘤」は最も頻度が高いものです。40代以上の女性の1割が骨盤臓器脱に罹患しているという統計もあり、決して他人事ではないのです。しかし、この数字は自覚症状がある方のものです。実際には、まだ症状として現れていない初期段階の方を含めると、より多くの方がリスクを抱えていると、私たちは考えています。
2. なぜ40代が運命の分かれ道なのか
骨盤臓器脱の最大の引き金は、やはり妊娠と出産です。お腹の中で赤ちゃんを育む10ヶ月間、骨盤底筋は常に重たい子宮に圧迫されます。そして分娩時には、赤ちゃんが産道を通るために、骨盤底筋は極限まで引き伸ばされ、時に断裂することもあります。このダメージは、出産直後には気づかれず、数年から数十年という長い時間をかけて、じわじわと組織の緩みとして進行していくのです。そこに追い打ちをかけるのが、40代から始まる女性ホルモン「エストロゲン」の減少です。エストロゲンは、皮膚のハリを保つコラーゲンの生成を促す働きがありますが、これは骨盤底の筋肉や靭帯の弾力性を維持するためにも不可欠です。40代に入りこのホルモンが減り始めると、出産で傷ついた組織の回復力が追いつかなくなり、緩みが加速しやすくなります。さらに、便秘で強くいきむ習慣、花粉症や喘息による慢性的な咳、重い荷物を持つ仕事、肥満といった、日常的にお腹に力が入る(腹圧がかかる)生活習慣も、骨盤底への負担を蓄積させる大きな要因となります。つまり40代は、これまでのダメージの蓄積と、体の内側からの変化が交差する、骨盤臓器脱にとっての「ターニングポイント」と言えるのです。
3. 見逃さないで!体からの静かなSOS
骨盤臓器脱は、ある日突然、臓器が体外に出てくるわけではありません。多くの場合、ごく些細な、気のせいかと見過ごしてしまいがちな症状から始まります。
例えば、「夕方になると、股の間に何かが挟まっているような違和感がある」「長時間立っていると下腹部が重く、引っ張られるように感じる」といったものです。入浴中に体を洗っていて、膣の入り口にピンポン玉のような柔らかいものに触れて、初めて「何かおかしい」と気づく方も少なくありません。
これらの症状は、横になって休むと軽くなることが多いため、「今日は疲れているだけ」と自己判断してしまいがちです。
また、排尿に関するトラブルとして現れることもあります。「トイレが近い」「くしゃみや咳で尿がもれる」といった症状に加え、「尿の勢いが弱い」「排尿後も残っている感じがする(残尿感)」、あるいは「お腹に力を入れないと尿が出にくい」といった症状も、膀胱が下がっているサインかもしれません。便秘がちになったり、性交時に違和感を覚えたりすることもあります。これらの体からの静かなSOSに、どうか耳を傾けてみてください。
4. 40代から始める未来への投資
もし、少しでも気になるサインがあれば、恥ずかしがらずに専門医に相談することが、未来の自分への何よりの投資になります。
セルフケアとして最も有効なのは「骨盤底筋トレーニング」です。これは、おならを我慢するように、膣や肛門のあたりを5秒ほどきゅっと締め、その後ゆっくり緩める運動です。テレビを見ながらでも、通勤中の電車の中でも、誰にも気づかれずにできます。また、適正体重を維持し、食物繊維と水分を十分に摂って便秘を予防するなど、腹圧をかけない生活習慣を心がけることも非常に重要です。
そして何より、一人で悩まないでください。泌尿器科、特に女性泌尿器科は、あなたと同じ悩みを抱えた多くの女性が訪れる場所です。
当院は、女性専用外来をもうけ、福岡市中央区薬院で女性医師が診察する予約制の病院です。尿失禁や骨盤臓器脱、繰り返す膀胱炎など女性特有の症状に、同じ女性スタッフがカウンセリングから検査、治療まで一貫対応します。恥ずかしい悩みも気軽に相談できる配慮があり、検査・治療は個室で安心して受けていただけます。
治療法も、骨盤底筋トレーニングの指導や生活改善のアドバイスから始まり、緩んだ膣の組織を再生させるレーザー治療、進行した場合の手術まで、選択肢は多岐にわたります。40代からの適切なケアが、この先の50代、60代、そしてその先の人生を、より快適で活動的に過ごすための礎となるのです。

