「何かが下がる感じ」は年のせい?骨盤臓器脱症状のサイン―福岡薬院ひ尿器科コラム
お風呂で体を洗っている時、ふと股の間にピンポン玉のようなものに触れた。椅子に座ると、まるでボールの上に座っているかのような違和感がある。夕方になると、膣から何かが下がってくるような、言葉にしがたい不快感が強くなる。
そんな症状を、「もう年だから仕方ない」「出産を経験したから当然のこと」と、心の中にしまい込んでいませんか。その不快な感覚は、決して気のせいでも、単なる加齢現象でもありません。それは、「骨盤臓器脱」という病気が発している、体からのSOSサインかもしれないのです。
多くの女性がひとりで悩みを抱えがちなこの病気について、この記事ではその正体とサインを優しく解き明かします。あなたのその違和感の理由を知り、安心で快適な毎日を取り戻すための一歩を、ここから踏み出しましょう。
1.その違和感は「骨盤臓器脱」のサインです
あなたが感じている「何かが下がってくる感じ」や「股の間に何かが挟まっている感覚」は、骨盤臓器脱の典型的な初期症状です。骨盤臓器脱とは、骨盤の底で内臓を支えている「骨盤底筋」という筋肉や靭帯がゆるむことで、子宮や膀胱、直腸といった臓器が本来の位置から下がり、膣から出てきてしまう病気です。
出産経験のある50歳以上の女性の10%以上に見られるとも言われ、決して珍しい病気ではありません。しかし、「恥ずかしい」という気持ちから誰にも相談できず、我慢し続けている人が非常に多いのが現状です。
この病気は、命に直接関わるものではありませんが、放置すると症状が進行し、生活の質(QOL)を著しく低下させます。違和感だけでなく、排尿や排便のトラブル、歩行困難などを引き起こすこともあります。大切なのは、そのサインに気づき、「これは治療できる病気なんだ」と認識することです。
2.出産と加齢で「骨盤底筋」のゆるみ
なぜ、骨盤臓器脱は起こるのでしょうか。その最大の原因は、妊娠・出産と加齢による「骨盤底筋群」のダメージとゆるみです。
骨盤底筋は、骨盤の底でハンモックのように広がり、膀胱や子宮、直腸といった臓器を下からしっかりと支える重要な役割を担っています。しかし、妊娠によって大きくなった子宮の重みが長期間かかり続け、出産時には赤ちゃんが産道を通過することで、このハンモックは引き伸ばされたり、部分的に断裂したりしてしまいます。
若いうちは筋肉の回復力でなんとか支えられていても、加齢とともに筋肉が衰え、さらに閉経後の女性ホルモンの減少が組織の弾力性を失わせることで、支える力はどんどん弱まっていきます。その結果、ハンモックがたるみ、その上に乗っている臓器が重力に負けて下がってきてしまうのです。
その他のリスク要因として、肥満、慢性的な咳(喘息・COPDなど)、便秘による強いいきみ、重い物を繰り返し持つ作業や長時間の立ち仕事・庭仕事などによる慢性的な腹圧上昇が挙げられます。加えて、出産回数が多いこと、難産や吸引・鉗子分娩、体重の大きな児の分娩、子宮摘出をはじめとする骨盤内手術歴、遺伝的素因や結合組織の脆弱性(家族歴)、骨盤底の神経障害、喫煙、高強度スポーツ、腹水や腹部腫瘍による腹圧上昇なども発症リスクを高める要因となります。
3.こんな症状があったら要注意!
骨盤臓器脱の症状は、下がってくる臓器の種類や程度によって様々です。初期段階では無症状のことも多いですが、進行するにつれてはっきりとしたサインが現れます。あなたの症状と照らし合わせてみてください。
【初期によくある症状(下垂感)】
* 膣や下腹部に、何かが下がってくる感じや重い感じがする。
* お風呂やトイレで、股の間にピンポン玉のような柔らかいものに触れる。
* 椅子に座ると、ボールの上に座っているような違和感がある。
* 歩いている時に、股に何かが挟まっているような感じがする。
* 症状は午前中よりも、活動した後の午後や夕方にかけて強くなることが多い。
【進行すると現れる症状(機能障害)】
* 排尿のトラブル:トイレが近い(頻尿)、尿が出にくい、残尿感がある、尿漏れするなど。ひどくなると、下がってきた部分を手で押し込まないと尿が出せなくなることもあります。
* 排便のトラブル:便秘になったり、便が出にくくなったりする。
* その他の症状:下がってきた部分が下着に擦れて出血したり、痛みを感じたりする。おりものの量が増えることもあります。
これらの症状は、一つだけ現れることもあれば、複数が組み合わさって現れることもあります。
4.ひとりで悩まず専門医に相談しましょう
「何かが下がってくる感じ」の正体が、骨盤臓器脱という病気だと分かり、不安になったかもしれません。しかし、同時に、その不快な症状が「年のせい」ではなく、治療できるものだと分かり、少し安心したのではないでしょうか。
骨盤臓器脱の治療法には、骨盤底筋を鍛えるトレーニングから、ペッサリーというリングを挿入する方法、そして根治を目指す手術まで、様々な選択肢があります。症状の程度やあなたのライフスタイルに合わせて、最適な方法を医師と一緒に選びましょう。
大切なのは、「恥ずかしい」という気持ちを乗り越えて、勇気を出して専門医(泌尿器科や婦人科)の扉を叩くことです。その小さな一歩が、長年の悩みからあなたを解放し、もっと快適で活動的な毎日を取り戻すきっかけになります。もう我慢しないでください。あなたの体が出しているサインを信じて、専門家への相談を考えてみませんか。

